タンゴの国アルゼンチン [パタゴニア]
地球最南端のウシュアイア空港を定刻のお昼過ぎに飛び立った飛行機は、夕方の5時には、ブエノスアイレスのエセイサ空港に着陸した。
本来であれば、ここで、飛行機を乗り換えて帰国の途につくところだが、飛行機が遅れた時のことを考慮して、ブエノスアイレスに、さらにもう1泊する予定になっている。
パタゴニアへ行く時も、3時間も遅れて飛行機が飛び立ったのだ。
遅れることはよくあるらしい。
定刻にブエノスアイレスに入れたおかげで、おいしい夕食をホテルで食べることができた。
その上、夜のタンゴショーにも急きょ、行くことになった。
タンゴショーは夜の10時スタート。
寝る時間ではないか、なんという時間だ!
それが当たり前のお国柄らしい。
”エル・ビエホ・アルマセン”という小さな劇場だった。
座席は一番前のテーブル。
飲み物がついている。
楽団もそろっている。
バイオリン2本、バンドネオン2本と・・・
コントラバスにピアノ。
バイオリンがあることで、単純にうれしくなる。
カメラOKだったので、何枚もの写真をとったが、ほとんど、ピンボケになっていた。
タンゴは動きが激しくて、うまく撮れない。
男性ばっかりのダンスもあった。
そこに女性が割り込んでくる。
ひとしきりダンスがあった後は、歌。
そして、また激しいダンス。
タンゴのステップは決めがかっこいい。
女性を持ち上げるリフトまで出てきた。これはプロでなきゃできない仕業だ。
フォークロアはアンデスの山を思わせる音楽をかなでていた。
コンドルが飛んでいる歌もあった。
また、ダンス。
スリットの入ったスカートがひらひらとまわる。
そして、今度は、また歌。
最初、この歌手が舞台に出てきたときには、驚いた。
背中が丸くなって、背丈がとても低い。
晩年の淡谷のり子さんも骨粗しょう症のために、15cmほど背丈が縮んで背中の骨が曲がってしまっていた。
私の母親も同じだ。
歌いはじめると、満場がシーンと静まり返り、ぐいぐいと歌に引き込まれていった。
ワイングラスを片手にしっとりと歌うタンゴは、スペイン語の歌詞がわからなくても心を打つ。
もう、ゆうに70歳は越えているだろう。
いろんなことがあったんだろう、と思わずしみじみと感慨にふける。
なんでも、このおばさまは、ここのお店の看板になるほどの人気なんだそうな。
歌い終わって、舞台の階段を下りるのも、一歩一歩、男性に手で支えてもらっていた。
あっという間に、エンディングとなった。
出演者全員が舞台にのぼって、おしまい。
夜中の12時をまわていた。
タンゴをクラシックの世界に持ち込んだアルゼンチンの作曲者として有名なピアソラを、いつか弾いてみたいものだと思って、楽譜を買ってある。
指揮者のダニエル・バレンボイムはピアニストでもあるが、なんと、ピアソラを弾いたCDがある。
バレンボイムは、ロシア系ユダヤ人で、国籍はイスラエルだが、ブエノスアイレスで育っている。
ユダヤ 系の音楽家はワーグナーが嫌いだが、バレンボイムは、わけへだてなく、ワーグナーも振っている。
15年ほど前に、日本にベルリンシュターツオーパーがきて、ワーグナーの「ニーベルングの指輪」をやったときの指揮者が、バレンボイムだった。
1週間に4回で完結するという途方もないワーグナーの楽劇をみるために、必死でNHKホールに通ったので覚えているのだけど。
バレンボイムはその幅の広さがいい。
ブエノスアイレス出身の音楽家では、ピアニストのマルタ・アルゲリッチも有名だ。
アルゲリッチはCDやテレビでしか聞いたことがないけど、やはり独特の振幅を持っている。
タンゴを生んだ国、アルゼンチンは、なにかそういう一味違う才能を生み出すものがあるんだろうか。
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